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東京地方裁判所 昭和58年(行ウ)66号 判決 1988年3月22日

原告(1)

藤井誠一

原告(6)

齊藤誠

他三五名

右原告ら訴訟代理人弁護士

大川隆司

清水順子

右原告ら(原告番号6を除く。)訴訟代理人弁護士

齊藤誠

被告

株式会社品川都市整備公社

右代表者代表取締役

鈴木尚一

右訴訟代理人弁護士

近藤善孝

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、訴外東京都品川区(以下「品川区」という。)に対し、金二億円及びこれに対する昭和五七年四月一六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案の答弁)

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告ら

原告らは、いずれも品川区の住民である。

(二) 被告

被告は、頭書記載の場所に事務所を置き、定款に事業目的として、(1)都市整備に関する調査、(2)不動産の建設、販売、賃貸、管理、(3)損害保険代理業務、(4)前三号に関連若しくは付帯する業務を掲げる株式会社である。

2  公金の支出

(一) 被告の設立

被告は、昭和五七年四月一五日に創立総会が開かれ、同月一七日設立の登記を経ることによつて設立された。

(二) 品川区の出資

被告の授権資本金額は五億円、設立時払込資本金額は二億五八〇〇万円であるが、品川区はそのうち二億円についての株式引受け(以下「本件株式引受け」という。)をし、昭和五六年度予算に基づき、同区総務部長本間将の支出負担行為及び区長多賀榮太郎の支出命令により、昭和五七年四月一五日に設立中の被告に同額の払込み(以下「本件払込み」という。)をした。

3  本件株式引受けの無効

(一) 被告設立の背景

(1) 公金支出差止判決の存在

東京地方裁判所は、昭和五三年(行ウ)第五一号違法公金支出差止請求事件について、昭和五五年六月一〇日、同事件の被告とされた品川区長に対し、日本国有鉄道(当時。以下「国鉄」という。)が品川区内に設置を予定している仮称西大井駅の駅舎建設費用及び同用地取得費用に充てるために品川区の公金を支出してはならないとの判決を言い渡し、その理由として、右の公金の支出は、トンネル機関としての仮称西大井駅設置促進期成同盟を経由すると否とにかかわらず、地方財政再建促進特別措置法(昭和六一年法律第九三号による改正前のもの。以下「地財再建法」という。)二四条二項に違反して違法なものであると判示した。

(2) 再開発方式による駅舎建設の企図

ア 品川区議会都市再開発特別委員会は、昭和五五年七月、西大井駅舎の建設を第三セクターによる再開発方式(以下「第三セクター方式」という。)で行うことを決議した。

イ 昭和五六年三月には区議会において被告会社への出資金を含む同年度品川区一般会計予算が可決された。

ウ 同年一二月には品川区都市整備本部において西大井一丁目地区市街地再開発基本計画案が策定された。

エ 右再開発事業の内容は、予定地内に高層マンション二棟及び駅本屋等を建設するとともに、周辺道路と広場を整備することである。右の総事業費総額は約八二億円であり、そのうち国等からの補助金は約一七億円を見込み、残額の約六五億円は参加組合員となる野村不動産株式会社(以下「野村不動産」という。)が支出し、その対価として同社が保留床全部を取得したうえ、その一部に当たる駅本屋(約三億円相当)と、保留床の残部(マンション部分)を分譲して得る利益の中からそれ以外の鉄道関連施設(連絡通路、ホーム等)の建設資金(約一七億円ないし一八億円)とを国鉄に寄附することが予定された。

(3) 事業予定地の被告への譲渡等

ア 品川区は、昭和五七年三月二五日、右再開発事業の予定地一万一〇四四平方メートル内の土地8238.19平方メートルについて、二四億六三〇六万六五一六円で東京都から払下げを受けた。

イ 品川区は右アのとおり払下げを受けた土地のうち7619.06平方メートルを当初の予定どおり、昭和五八年七月二〇日、代金二四億六一二二万二八二三円で被告に売り渡した。

ウ 西大井一丁目市街地再開発組合(以下「本件組合」という。)設立に関する東京都知事の認可は同年一一月一四日にされ、被告は当初の予定どおり、地権者として右組合の組合員となつた。

(二) 本件株式引受けの無効原因

(1) 地財再建法二四条二項の潜脱

ア 一般に市街地再開発事業を推進することによつて、いわゆる再開発利益が発生する。ここにいう再開発利益とは、同再開発事業により建築される建築物(施設建築物)及びその敷地の価額が地権者への補償(権利変換計画による権利床の付与を含む。)及び経費等を償つてなお生ずる剰余のことであり、かかる利益が生じた場合、各地権者はそれぞれの権利割合に応じてその配分を求め得る筋合である。

イ 本件組合が野村不動産に対して保留床を譲渡するについて予定された価格は一般的再開発利益(駅が設置されると否とにかかわらず生ずる再開発利益をいう。)を含まないものであり、野村不動産は通常の転売利益を超える特別な利益を取得することになるが、この特別な利益の中から国鉄への前記((一)の(2)のエ)の寄附がされることが予定されていたのである。

ウ 要するに、西大井一丁目地区第一種市街地再開発事業(以下「本件再開発事業」という。)は、品川区が一般的再開発利益による西大井駅本屋を野村不動産を経由して国鉄に寄附するための仕掛けであり、品川区が地権者のまま右事業を推進すれば、事業予定地の約六九パーセントを所有していた品川区に帰属するはずの再開発利益を国鉄のために放棄するのに、品川区がその主体となるのを避け、被告を身代わりとして設立したものである。

このように、被告は地財再建法二四条二項の適用を免れるために設立されたものである。

(2) 被告の設立が無用であること

ア 仮に野村不動産に対する保留床の譲渡の際、再開発利益が生じておらず、地権者に放棄すべきものがなかつたとすれば、被告を設立するのは無用であり、再開発事業の推進にあたつて、第三セクター方式でなくては対応できない事態というものも考えられない。

イ しかも、品川区においては、昭和四六年一〇月一五日に財団法人品川区開発公社(以下「区開発公社」という。)が設立されているのであり、第三セクター方式によつて本件再開発事業を施行するとしても、同公社をして行わせることができたから、重畳的に被告を設立するのは無用なことであつた。

(3) 公序違反

地方公共団体の出資については、地方自治法二三二条の二に準じ、公益上の必要がなければならないと解すべきであるところ、本件株式引受けは、右(1)及び(2)の事実に照らし、公益上の必要性を欠いていることが明らかであり、また地方財政法四条にいう「必要且つ最少の限度」を超えることも明らかである。しかも、その違法性の程度は重大であつて、民法九〇条に定める「公の秩序」に違反するものであるから本件株式引受けは無効というべきである。

したがつて、前記(2の(二))の支出負担行為及び支出命令は無効というべきである。

4  悪意の受益

本件株式引受けがされた当時、設立中であつた被告の代表者は、品川区の区長多賀榮太郎であり、同人は本件株式引受けが無効であることを知りながら、前記(2(二))のとおり、品川区から二億円の払込みを受けた。

5  前置手続

原告らは、昭和五七年一二月二三日、品川区監査委員に対し、本件払込みに係る金員の返還を勧告することを求めて監査請求をした。

しかし、同監査委員は昭和五八年二月二一日、原告らに対し、本件払込みは違法、不当でないので返還措置を求めないとする監査結果を通知した。

6  結語

よつて、原告らは被告に対し、地方自治法二四二条の二第一項四号後段の規定に基づき、品川区に代位して、不当利得金二億円及びこれに対する悪意の受益日の翌日である昭和五七年四月一六日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による利息金を品川区に支払うよう求める。

二  本案前の主張(被告)

1  損害の不存在

地方自治体に対する損害の発生は、地方自治法二四二条の二第一項の各号の訴訟を通じて、訴訟要件であると解すべきである。

本件において、原告らは、被告に対する品川区の本件株式引受けを無効であるとして、本件払込みにより支出した金員を品川区へ返還するよう求めているが、品川区はその対価として被告の株式を取得したのであるから、何ら損害がないのであつて、本件訴えは不適法である。

2  別件訴訟の取下げによる権利保護の利益の喪失

(一) 別件訴訟の提起

原告らは、昭和五九年七月一〇日、本件再開発事業の関係地権者ら、参加組合員の野村不動産、本件訴訟の被告を相手として、東京地方裁判所に同年(行ウ)第一二一号事件を提起した(以下、同事件の訴訟を「別件訴訟」という。)。

別件訴訟における請求の趣旨及び原因の骨子は、品川区から本件訴訟の被告への土地売買は随意契約でされた点で無効であり、そのため本件再開発事業における権利変換も無効であるから、原告らは、品川区に代位し、所要の不動産登記手続を求めるというにあつた。

(二) 別件訴訟の取下げ

原告らは、野村不動産から和解金として五〇〇万円を受領し、昭和六〇年二月一〇日、別件訴訟の訴えを取り下げた。

(三) 権利保護の利益の喪失

別件訴訟は住民訴訟であるから原告ら個人の権利利益の保護を目的としない客観訴訟であるところ、同訴訟と本件訴訟とは、請求の趣旨が異なるが、紛争の原因、経緯、主たる当事者(被告)、原告らの終局的目的は同一であるから、原告らは別件訴訟の訴えの取下げにより本件再開発事業に関する紛争を訴訟により解決することを放棄したものであつて、本件訴訟における権利保護の利益を喪失したものである。

三  本案前の主張に対する認否(原告ら)

1  本案前の主張1(損害の不存在)は争う。

2  同2(別件訴訟の取下げによる権利保護の利益の喪失)の(一)(別件訴訟の提起)、(二)(別件訴訟の取下げ)の各事実は認め、(三)(権利保護の利益の喪失)の主張は争う。

四  請求原因に対する認否及び被告の反論

(認否)

1 請求原因1(当事者)、2(公金の支出)の(一)(被告の設立)の各事実は認め、同(二)(品川区の出資)のうち、支出負担行為をした者に関する点を否認し、その余の事実は認める。右の支出負担行為をした者は相見企画調整部長である。

2 同3(本件株式引受けの無効)の(一)(被告設立の背景)の事実は認め、同(二)(本件株式引受けの無効原因)については、(1)(地財再建法二四条二項の潜脱)のウのうち本件再開発事業の事業予定地の約六九パーセントを品川区が所有していたこと、(2)(被告の設立が無用であること)のイのうち原告ら主張の日に区開発公社が設立されていることのみを認め、その余をすべて争う。

3 同4(悪意の受益)の事実は否認する。

4 同5(前置手続)の事実は認める。

5 同6(結語)は争う。

(被告の反論)

6 株式引受けの無効の主張制限

会社の成立後において、民法の規定に基づいて株式引受けの無効を主張することは許されないものであるところ(商法一九一条)、原告らは被告の成立後に本件株式引受けの無効を主張するものであつて、右主張は失当である。

7 被告の設立の有用性

第三セクター方式は、次のような理由から、地方公共団体の直接経営方式よりも有用な場合があり、被告の設立はその場合に該当する。

(一) 地域の基盤的事業は、一般に規模が大きくて所要資金も莫大なため、地方債等による資金のみでは充分に対処できず、機動的に民間資金を導入して事業を促進するのに、第三セクター方式の方が都合がよい。

(二) 第三セクター方式は、直接経営方式による場合の管理者の自主性と能力の限界を克服し、また、地方公共団体の長、議会の関与や公の財務会計制度の制約を免れ、社会経済情勢に即応した機敏で、能率的な経営活動を営むことができる。

(三) 第三セクター方式は、民間の側からは、特に都市機能の整備事業等新しい事業分野において、地方公共団体のもつ機能の総合性と信用力を活用することができる。

なお、区開発公社は、区が購入する土地の代金を民間資金を借り入れ、区に代わつて支払うことを目的として設立されたものであり、自ら土地を購入することはできないので、被告の目的とは異なり、本件再開発事業の施行上、被告の設立が無用であるということはない。

8 西大井駅開設による便益

一般に新駅を開設すると、次のような便益が生じるのであるが、本件再開発事業により西大井駅が開設された場合も同様である。

(一) 企業立地条件が改善されることにより、雇用が増大し、商店の販売額が増大したり、賃金及び地価が上昇して、税収が伸び、また、地域文化に変化が生じて地域格差が是正される。

(二) 鉄道利用者の利便が増大し、民生が安定するとともに、地域交通の再編によりエネルギーの節約がもたらされる。

五  被告の反論に対する原告らの再反論

1  被告の反論(四の6ないし8)はすべて争う。

2  被告の反論四の7(被告の設立の有用性)について

本件再開発事業は被告を設立しなくても、品川区が本件組合の組合員になることによつて推進することができたはずである。

かえつて品川区は被告の収益を図るため、別の第三セクターとして財団法人品川文化振興事業団(以下「文化振興事業団」という。)を設立し、本件再開発事業における権利変換により被告の所有となつた建物を賃借させ、その賃料の大部分を文化振興事業団に対し補助金として支出することにより自ら損害を生じさせている。

3  同8(西大井駅開発による便益)について

西大井駅の新設によつていかなる便益が生じようと、地方自治体である品川区が国鉄のために経済的負担をすることの適法性の論拠にはなり得ない。

第三  証拠<省略>

理由

第一訴訟要件の存否

一当事者適格及び前置手続について

請求原因1(当事者)、5(前置手続)の各事実は当事者間に争いがない。

右の事実によれば、原告らが本件訴訟につき原告適格を有すること、原告らが適法に監査請求手続を経由していることは明らかである。

被告適格についても、原告らは、被告が地方自治法二四二条の二第一項四号後段の規定により、品川区に対し、不当利得金の返還義務を負う旨を主張しているのであつて、被告が被告適格を有することは明らかである。

二本案前の主張1(損害の不存在)について

被告は、本件株式引受けに関して品川区には何らの損害もないから本件訴えは不適法である旨主張する。

しかし、地方自治法二四二条の二第一項四号後段の不当利得返還請求訴訟において、利益又は損失の存否は本案において判断されるべき事項であることは明らかであり、被告に損失(損害)がないからといつて、これにより本件訴えが不適法となるいわれはない。

したがつて、被告の右主張は失当である。

三本案前の主張2(別件訴訟の取下げによる権利保護の利益の喪失)について

本案前の主張2(一)(別件訴訟の提起)、(二)(別件訴訟の取下げ)の各事実は当事者間に争いがない。

ところで、別件訴訟の訴訟物は品川区が本件訴訟の被告に対して有すると主張される不動産登記手続請求権等であり、本件訴訟の訴訟物は品川区が被告に対して有すると主張される本件払込みに係る金員の不当利得返還請求権であつて、右の両者が訴訟の目的を異にすることは明白である。そうすると、たとえ、別件訴訟が本件訴訟と紛争の原因において共通している面があり、別件訴訟につき原告らが訴訟により紛争を解決することを放棄する趣旨でその取下げをしたからといつて、このことにより、原告らが本件訴訟を維持することができなくなるとは到底考えることができない。

したがつて、被告の右主張は失当である。

第二本案について

一公金の支出

請求原因2(公金の支出)の(一)(被告の設立)の事実及び同(二)(品川区の出資)のうち、支出負担行為をした者に関する点を除く事実は当事者間に争いがない。

二本件の公金の支出の適否

1  株式引受けの無効の主張制限(事実摘示四の6の被告の反論)について

被告は、会社の成立後において、民法の規定に基づいて株式引受けの無効を主張することはそもそも許されないとして、商法一九一条を援用する。

しかし、同条は、株式を引き受けた者が会社の成立後に錯誤若しくは株式申込証の要件の欠缺を理由としてその引受けの無効を主張し、又は詐欺若しくは強迫を理由としてその引受けを取り消すことができないとするものであるところ、原告らは本件株式引受けが民法九〇条の公序に反する無効なものであると主張するのであるから、右の主張は何ら同条の禁止するところではないし、他に、会社成立後において、株式の引受けを公序良俗違反として右の主張を制限する根拠は見当たらない。

したがつて、被告の前記主張は採用することができない。

2  本件株式引受け等の効力について

(一) 被告設立の背景等

請求原因3(本件株式引受けの無効)の(一)(被告設立の背景)の事実、同(二)(本件株式引受けの無効原因)の(1)(地財再建法二四条二項の潜脱)のウのうち、本件再開発事業の事業予定地の約六九パーセントを所有していたこと、同(2)(被告の設立が無用であること)のイのうち、原告ら主張の日に区開発公社が設立されていることは、いずれも当事者間に争いがない。

右の当事者間に争いのない事実に、<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。

(1) 昭和五五年六月一〇日に請求原因3の(一)の(1)記載の公金支出差止判決が言い渡された直後である同月一二日、品川区議会の品鶴線対策特別委員会において、町田助役は右判決に対して上級審の判断を求める必要があると考える旨発言した。他方、鶴委員から駅舎建設費用の支出以外の方策について質問があつたのに対し、相見企画調整部長は、「再開発等の手法を含めて、現在、検討の段階である。」と答弁した。

(2) 同月二六日、品鶴線西大井駅設置促進連盟会長である山本正平らから品川区議会議長宛に「西大井駅の建設と駅周辺の開発早期実現に関する請願」が提出されたが、右請願において、「第三セクターによる再開発手法や民間デベロッパーによる方法によつて資金を捻出し、その資金によつて駅舎を建設する方法などを工夫すべきである」と提案された。

右請願は、同年七月一一日、品川区議会本会議において採択された。

(3) 同月四日、品川区は品鶴線対策特別委員会の資料として、「西大井駅建設に関する構想」(<証拠>)を作成した。右書面には、再開発方式によつて、開発利益で同駅を建設すること、その方法としては、財団法人(仮称)品川区再開発公社を設立すること、都有地を区が購入し、同公社に売却すること、同公社所有地、民有地等をもつて市街地再開発を行うこと、保留床の売却益から建設費を控除した額と再開発公社の権利床売却額の合計額によつて駅を建設することなどが記載されていた。

(4) 品川区は、遅くとも昭和五六年二月ころまでに、東京都に対して、再開発事業予定地内の都有地8238.19平方メートルの同区への払下げの要望活動を行つた。

東京都においては、右都有地を東京都住宅供給公社に用地の払下げをし、再開発事業に同公社が組合員として参加することを希望したため、品川区が同公社と協議をしたことがあつた。しかし、同公社は、遅くとも昭和五七年一月までに、本件再開発事業に加わらないことが明らかになつた。

(5) 本件再開発事業予定地内の都有地の払下げについて見通しが立つていた昭和五七年三月一〇日、品川区議会の都市再開発特別委員会において、相見企画調整部長はこれまで本件再開発事業を第三セクター方式で施行するため構想されていた財団法人の設立に代え、より制約の少ない株式会社として被告を募集設立の方法で設立する計画であることを明らかにした。

(6) 品川区は、昭和五七年三月二五日、東京都から8238.19平方メートルの土地の払下げを受け、昭和五八年七月二〇日、そのうち7619.06平方メートルを被告に代金二四億六一二二万二八二三円で払下げたが、その価格について、同年七月四日開催された品川区議会の総務委員会において、経理課長高沢某は、財産価格審議会の答申により、被告が区の施策を推進するものであるということから、原価的手法により算定した旨答弁した。

(7) 本件株式引受け当時予定されていた本件再開発事業の内容は、同事業予定地内に高層マンション二棟及び駅本屋を建設し、これに伴い、周辺道路及び広場を整備することであり、そのために要する総事業費から補助金を控除した額を参加組合員となる民間ディヴェロッパー(後に、野村不動産が参加組合員となつた。)が負担し、民間ディヴェロッパーはその対価として保留床全部を取得して、その中から国鉄に対して駅本屋を寄附するほか、保留床の残部を分譲して得られる利益から国鉄に対して駅本屋以外の鉄道関連施設(連絡通路、ホーム等)の建設資金を寄附するというものであつた。

(二) 公序良俗違反等の無効原因の有無

原告らは、本件株式引受け及び本件払込みに関する公金支出のための支出負担行為及び支出命令が、地財再建法を潜脱し、設立の必要がないのにされたものであるから公序に違反して無効であると主張する(請求原因3の(二))。

ところで、地財再建法二四条二項が国等(国鉄も含む。以下同じ。)に対する地方自治体の寄附金の支出等を禁止した目的は、従来から地方財政法四条の五の規定によつて国の地方公共団体からの強制的な寄附金の徴収が禁止されていたが、自発的な寄附等は規制の対象となつていなかつたため、国等がその優越的な地位を背景にして、本来自己の負担すべき経費につき寄附の名目で地方公共団体にその負担を転嫁したり、あるいは、地方公共団体の側において国等の機関を誘致するために国等が負担すべき経費を進んで拠出するといつた事態が生じ、これをそのまま放置するときは、国等と地方公共団体との間の経費負担区分を乱し、地方財政秩序を混乱させるおそれがあるので、このような地方公共団体から国等に対してされる自発的な寄附任意負担又はこれに類するものの支出を原則的に禁止することによつて、右の弊害を防止し、地方財政の健全化を図ることにあると解される。そして、地財再建法二四条二項の規定によつて禁止されるのは、右に述べた自発的な寄附、任意負担又はこれに類するものの支出であり、その支出が形式的には国等に直接されるものでなくとも、実質的に国等に対する支出と同視できるものであれば、その支出は禁止されると解すべきであるが、右の支出に当たらない支出が同項の規制の対象とならないことはいうまでもない。

そこで、本件株式引受けが同項の規定に違反するか否かについて検討するに、株式の引受けにより、株式引受人は、引受けに係る株式の発行価額の全額の払込義務を負うが(商法一七六条、一七七条一項)、他方、その払込みをしたときは、会社の設立により、対価として引き受けをした株式を取得するものである。

しかして、前記の認定事実によれば、被告が設立された主要な目的は、被告を本件再開発事業に組合員としてこれを参画させ、その一環として民間ディヴェロッパーである参加組合員から国鉄に対し、駅本屋の無償供与及びその他の鉄道関連施設の建設資金の無償供与をすることにあつたということができるが、右の目的の達成は、本件株式引受けによるものということはできず、むしろ、その後の品川区が東京都から本件再開発事業を施行するために取得した土地を比較的安価(原価的手法により算定された。)に被告に提供し、さらに、被告が右土地の再開発利益を、実質上、野村不動産に供与した(この供与につき、被告の最大の持主である品川区がこれを容認したことは、弁論の全趣旨によりこれを認め得る。)ということによるものということができるのである。そして、本件株式引受け及び本件払込みに基づく品川区のした公金二億円の支出については、品川区は、それと等価と推認される被告の株式を取得しているところであり、本件株式引受けはいかにこれを実質的に見ても、それだけで、国鉄に対する前示の自発的な寄附、任意負担又はこれに類するものの支出とは到底評価し得ないものというほかはない。

したがつて、本件株式引受けは、地財再建法二四条二項に違反して無効なものであるとはいえないことはもとより、同項を潜脱した脱法的行為であるということもできない。

原告らは、被告の設立が無用なものであるから、本件株式引受けは公序良俗に反し、無効であると主張する(請求原因3の(二)の(2))。

しかし、地方公共団体が、第三セクターとしての株式会社の設立に参加することはもつぱら当該地方公共団体の裁量に属するところであつて、それにより地方公共団体がその施策の円滑化等の利便を計り得ることは容易に推察し得るところであり、このことは、被告の設立についてもいい得ることであるが、原告らの主張するところを勘案しても、なお、この推察を覆えすに足りない。

したがつて、原告らの右主張は、前提を欠き失当である。

なお、右に関連して、原告らは、被告の設立は無用のみならず、かえつて品川区が被告の収益を図るために文化振興事業団を設立し、本件再開発事業における権利変換により被告の所有となつた建物を賃借させ、賃料の大部分を補助金として支出して損害までを生じさせている旨主張するが(事実摘示五の2)、右主張によつても、品川区にいかなる損害が生じたかが明らかでないのみならず、それが被告設立の相当後に生じた事態であることは弁論の全趣旨から明らかであるから、本件株式引受けを無効とする根拠とはなり難い。

また、本件株式引受け及び本件払込みに関する支出負担行為及び支出命令による公金の支出が、地方自治法二三二条の二の寄附又は補助に当たるとはいい得ないのみならず、地方財政法四条に違反するとも断定できず、他に、公序良俗違反等によりこれを無効とすべき事情は本件全証拠によつても認めるに足りない。

3  まとめ

以上によると、本件の公金の支出は、これを違法とすることはできない。

第三結論

よつて、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官太田幸夫 裁判官青野洋士)

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